M-1 覇者ミルクボーイのコーンフレークの漫才から考える知の深化と知の探索

2020年の正月番組で間違いなく見ることになるであろうお笑い芸人の筆頭は、M-1グランプリ2019の覇者であるミルクボーイでしょう。2019年で初めてテレビでやった漫才が過去15回のM-1グランプリで最高得点となる981点を叩き出し、その後の決勝ラウンドでも勢いは衰えず7人の審査員のうち6人から支持され見事に優勝。

私自身、ミルクボーイの漫才をみて衝撃を受けた1人です。近年の傾向では、コントを入れ込んだ漫才が主流になっている傾向にありましたが、伝統的なしゃべくり漫才で、審査委員の松本人志からも「これぞ漫才、久しぶりに見せてもらった」と言われるほどです。以下ではミルクボーイのコンフレークの漫才について経営学の視点を織り交ぜながら考察します。

ミルクボーイのコーンフレークの漫才は何が面白かったのか

2001年から始まったM-1グランプリ。M-1以外にもTHE MANZAI等、多くの漫才やお笑いの番組があり、お笑いのありとあらゆるパターンが発掘されてきました。漫才をいくつかの類型にするとざっと以下のような感じでしょうか。

・コント系の漫才(アンタッチャブル、サンドウィッチマン)
・しゃべくり漫才(ブラックマヨネーズ、チュートリアル、銀シャリ)
・キャラが立っている漫才(フットボールアワー、オードリー、トレンディエンジェル、霜降り明星)
・革命的漫才(ダブルボケ)(笑い飯)

ざっくりとした分け方ですが、ミルクボーイの漫才は、松本人志に「これぞ漫才」と言われるぐらいでもあることから、伝統的なしゃべくり漫才に位置付けられると思います。

なお、しゃべくり漫才は「ネタの途中で2人とも特定のシチュエーションを模した芝居に突入しない形式の漫才を指す。いわゆる、正統派漫才と言われるもの」とwikipedeiaでは定義されています。

過去のM-1の中においてしゃべくり漫才で印象的だったのは、2005年のM-1を制覇したブラックマヨネーズです。審査委員の大竹まことからは「オーソドックスの漫才は好きではないけど、オーソドックスの凄さにびっくりした。新しいことをしなくても十分に面白いことを再認識した」と言われていました。

今回のミルクボーイのコーンフレークの漫才についても、大竹まことのコメントを思い出すとともに、漫才としては伝統的なしゃべくり漫才をベースに新しい漫才の「型」を提供したことで、新しさと面白さがあったものと思います。

では、ミルクボーイの漫才は何が面白かったのでしょうか。私の仮説はネタの題材となるコーンフレークを深掘りするだけではなく、コーンフレークの探索をしたことで、コーンフレークの魅力と可能性を存分に語り尽くしたからだというものです。

コーンフレークに関する知の深化と知の探索

話は飛びますが、経営学において、イノベーションの研究に大きな影響を与えたのは、Marchによる1991年の”Exploration and exploitation in organizational learning”の論文です。イノベーションの重要性を説いたシュンペンターの時代からイノベーションにおいては既存の知と知を組み合わせる「新結合」が重要だと言われてきました。Marchはさらに知と知の組み合わせには、一つを深掘る知の深化と外部への探索を行う知の探索が重要だと述べました。つまり、ざっくり説明すると、イノベーションには、知の深化と知の探索の両利きの経営が重要ということです。

ミルクボーイの漫才の面白さは、コーンフレークについて知の探索を知の深化を交互に行っているからではないでしょうか。以下ではミルクボーイの漫才について、コーンフレークであることを肯定する「知の深化」と否定する「知の探索」の両面についてまとめて見ました。

例えば、「何であんなに栄養バランスの五角形が大きいかわからない」ということについては、多くの人がコーンフレークのCMで紹介される栄養素のダイアグラムを思い出すでしょう。これに対して、ツッコミの内海が、「得意分野で勝負していると睨んでいる」や「牛乳の栄養素も含まれている」といった点でさらに知を深化させています。

一方、知の探索でいうと「晩御飯で出てきてもいい」ということについて、普通コーンフレークが晩御飯に出てくることは想像できず、ツッコミでは、「晩御飯でコーンフレークが出てきたらちゃぶ台をひっくり返す」「まだ朝の寝ぼけている時やから食べられる」とコーンフレークの晩御飯の可能性について探索を行っています。

なお、内海のツッコミを聞いて、我が家の2歳の娘が晩御飯にやおらコーンフレークを取り出し、お皿に牛乳とともに入れ出したことを思い出し、いかに大人はバイアスにかかっていると改めて実感をした次第です。

過去のしゃべくり漫才でも知の深化と知の探索が行われていた

ミルクボーイの漫才から、一つのことについて深化と探索を行うことで、十分革新的なお笑いが生み出されることを実感しました。まさに起業や新規事業を行う上でも大きなヒントとなります。

では、ミルクボーイ以外の漫才ではどうでしょうか。過去M-1グランプリを制覇したしゃべくり漫才では上述した通り、ブラックマヨネーズやチュートリアルがあげられますが、この二組の漫才でも今見ると知の深化と知の探索が行われていたことがわかります。

2005年のM-1を制覇したブラックマヨネーズの漫才では「ボーリングのマイボールを買うかどうか」についてずっとやり取りが続けられていました。後半では、ボーリングのマイボールを買った際に、バイクのヘルメットを入れる箇所にマイボールを入れた際に危機管理シミュレーションまでするほどです。ブラックマヨネーズの漫才では、小杉の「考えすぎや」というツッコミが知の深化と知の探索を一層引き立てていました。

もう一つのしゃべくり漫才は、2006年にM-1を制覇し、当時初の審査委員が決勝で全員一致で支持を受けたチュートリアルです。チュートリアルの漫才は一見ボケの徳井によるキャラクターショーのような漫才の印象を受けます(実際、2005年のM-1では審査委員の渡辺正行がそのように評しています)が、M-1で披露した漫才は、二本ともキャラで勝負というよりも特定のテーマで話を展開させていきます。すなわち、予選では冷蔵庫を、決勝では自転車のチリンチリンについて、これでもかというぐらいの深掘りと探索をしています。

ブラックマヨネーズ、チュートリアル、そしてミルクボーイのしゃべくり漫才のうち、個人的に一番印象的だったのは、チュートリアルです。これら3組の漫才はすべてある程度の型を持っています。ミルクボーイで言えば決勝のネタは、テーマはモナカとなっていましたが、フォーマットはコーンフレークの漫才とほぼ一緒でした。

他方、チュートリアルの場合は、フォーマットはほぼ同じですが、冷蔵庫のネタでは喜怒哀楽でいうと喜怒を中心に、チリンチリンでは哀をベースに漫才を展開していました。似たようなフォーマットに基づきながら感情の点で知の探索が行われていて、2回目の決勝のネタも新鮮な感じで見れたことを覚えています。

お笑いにも新規事業にもまだまだ可能性がある

私は普段スタートアップ企業の財務支援や新規事業開発の支援に関する業務を行なっています。当然に新規事業では、世の中に価値を新たに提供をして、さらに持続可能性がある事業を創ることが求められます。

新規事業に普段携わっているとどうやったら新しくて面白くて価値ある事業を世の中に提供できるのかに腐心することになります。そんな時ミルクボーイの漫才をみて、正直とても励まされました。

これまで数多くのパターンのお笑いが生み出されてきました。笑いのカリスマの松本人志は著書の遺書で次のことを指摘していました。

お笑いのパターンは、すべてとは言わないが、ほとんど出つくしたと言っていいだろう。オレも含め、若いお笑いの人たちは、 それを認めたうえでがんばるしかない 過去の人たちが作ったパターンを利用して、 自分たちの新しいアレンジを駆使してやっていけばいい。

あれから25年近くが経ち、そしてM-1が始まってから20年弱。お笑いのパターンはほぼ出尽くしたと言っても過言ではないかもしれません。それでもまだミルクボーイのような新たなパターンでもありながら伝統的な漫才を見れることに私は素直に感動しました。

お笑いにおいても新規事業においても新しいものを生み出すには知の深化と知の探索が重要になると再認識もしました。

同時に自分が携わっている新規事業の領域でもまだまだ面白い事業は生まれていくだろうし、そう言った事業を何かしらの形で支援をしていきたいとミルクボーイによるコーンフレークの知の深化と知の探索を思い出しながら感じたのでした。

GOB Incubation Partners株式会社 CFO
村上